農林水産省が2026年8月14日に公表した「今週のお手頃野菜」のデータが、飲食業界でも少し話題になっています。
キャベツの卸売価格が平年比179%と高値で推移する一方で、にんじんが「大変お買い得」、ねぎが「お買い得」な野菜として指定されました。
実際、2026年8月12日時点の東京都中央卸売市場におけるにんじんの卸売価格は98円/kg。
平年比で73%という安値になっています。
「キャベツが高いなら、安いにんじんやねぎで代替できないか」
メニュー開発や仕入れを担当していれば、誰もが一度は考えることかもしれません。
しかし現場に立つと、そこには数字だけでは割り切れない、特有の難しさがあると感じています。
飲食店の現場では、食材の切り替えは簡単ではありません。
キャベツをにんじんに変えるということは、
単に仕入れ対象を変えるだけでなく、
仕込みの手順や、スタッフへの指示、メニューの書き換えなど、
多くの作業が発生することを意味します。
また、にんじんは2026年8月7日更新分でも1kgあたり94円(平年比70%)となっており、
2週連続で安値水準を維持しています。
しかし、農林水産省の野菜価格見通し(2026年7月31日公表)によると、
にんじんは8月後半には平年並みに戻る見込みとされていました。
「今だけ安いから」とメニューを急に変更しても、
数週間後にはまた元の価格に戻ってしまうかもしれない。
そのたびに現場のオペレーションを振り回すわけにはいかない、
という判断が働くのはごく自然なことです。
結局、高騰するキャベツを耐え忍んで使い続けるしかない。
そんな選択を迫られている現場も多いのではないでしょうか。
一方で、この状況は卸・流通の現場にも別の形で影響を与えています。
仮に、飲食店側が「今週はキャベツを減らして、にんじんを増やそう」と決断したとします。
その変更は、どのように卸へ伝わるでしょうか。
「キャベツいつもの半分、代わりににんじん1箱追加」
「にんじん多めで」
LINEやFAX、あるいは電話口で、
それぞれの店が独自の書き方で注文を送ってきます。
卸の事務所では、そのバラバラな注文を、
担当者が「この店の“多め”は1箱のことだな」と記憶を頼りに解釈し、
自社の管理システムへ手で打ち直しています。
飲食店が急な価格変動に対応しようとすればするほど、
卸の現場には、システムに手入力する「見えない手間」が積み重なっていく。
これは、誰かが怠慢だから起きているわけではありません。
変動に対応するための「余白」を、
すべて現場の人の記憶と作業で埋めている構造そのものの問題だと感じています。
食材の仕入れ価格は、1円単位で目に見えます。
しかし、
「複数の卸から、にんじんの卸売価格(2026年8月)を比較する時間」や、
「バラバラの注文を打ち直す時間」は、
請求書にはっきりと現れません。
安値のにんじんを仕入れることで、一時的に原価率は下がるかもしれません。
しかし、そのために発注の手間が増えたり、
卸側で受注ミスや配送ミスが起きてしまっては、
結果として別のコストを支払っていることになります。
私たちは、1円でも安い食材を探す努力を否定したいわけではありません。
ただ、価格の波に一喜一憂し、
そのたびに現場が「人の頑張り」で無理をして乗り切る構造自体を、
少しずつ変えていくことはできないでしょうか。
食材の価格変動に、現場がもっとしなやかに、
摩擦なく対応できる仕組みとはどうあるべきなのか。
今週の安値のニュースを見ながら、そんなことを考えています。

飲食店として15年以上現場に立ち、その後は卸・流通の内側にも入りました。どちらの立場も見てきたからこそ気づいたことを、ここに書きとめています。