食材卸の受注は、今もいろいろな形で届きます。
LINE、FAX、電話、手書きのメモ。
だから「まずデジタル化しよう」という話になります。
それは正しいと思います。
手書きをOCRで読み取る。
LINEの文章をテキストにする。
FAXを画像からデータにする。
ここまでできれば、仕事はかなり減りそうに見えます。
私たちも、最初はそう思っていました。
たとえば「生1」という注文が届いたとします。
文字として読み取ること自体は、そんなに難しくありません。
問題はその先です。
「生」が、商品マスタのどれを指しているのか。
A店では生サーモンかもしれない。
別の店ではまったく違うものを「生」と呼んでいるかもしれない。
「赤2」
「いつもの3」
「前と同じ」
こういう注文もあります。
文字を正確に読めても、
それだけでは正しい商品になりません。
では、なぜ今まで仕事が回ってきたのか。
担当者が覚えているからです。
「あの店の“生”はこれ」
「この店で1と言ったら1kg」
「この商品だけは箱単位」
こうしたルールが、担当者の頭の中に積み上がっています。
だから注文が多少あいまいでも回ります。
裏を返すと、
システムではなく、人の記憶がマスタになっている
ということでもあります。
取引先が少ないうちは、このやり方でも成立します。
しかし取引先が増えれば、覚えるルールも増えます。
新しい人が入れば、また一から教えることになります。
「あの人しか分からない」が増えていく。
これは能力の話ではなく、
覚えることを人に預けている構造の話だと思います。
デジタル化そのものが無駄だとは思いません。
ただ、読み取りだけを先に進めても、
その後ろにある照合作業は残ったままです。
先に決めるべきなのは、
・どの呼び方が、どの商品なのか
・その対応を、どこに残すのか
この二つではないでしょうか。
紙をデータにする前に、
記憶をデータにする。
遠回りに見えて、
実はそちらが先なのかもしれません。

飲食店として15年以上現場に立ち、その後は卸・流通の内側にも入りました。どちらの立場も見てきたからこそ気づいたことを、ここに書きとめています。