飲食店の原価率が上がったとき、
多くの店がまず何をするかというと、
何もしません。
正確に言えば、
「様子を見る」という判断をします。
仕入れ値が上がったことは分かっている。
利益が薄くなっていることも、感覚では分かっている。
それでも、値上げは先送りされます。
値上げの話になると、
必ず最初に出てくるのがこの質問です。
「で、どれくらい上がってるの?」
ここで、多くの店が止まります。
去年の同じ月と比べていくら上がったのか。
どの商品が、どれだけ上がったのか。
答えられる店は、そう多くありません。
仕入れの記録は、納品書の束としては残っています。
でも「比較できる形」では残っていません。
上がったことは分かるが、いくら上がったかは分からない。
この状態で値上げを決めるのは、
かなり勇気のいる判断です。
「決断できない経営者」という言い方をされることがあります。
でも現場を見ていると、
そういう話ではないと感じています。
根拠のない値上げは、説明ができません。
スタッフに聞かれても答えられない。
常連さんに聞かれても答えられない。
だから、先送りされます。
決断力の問題ではなく、
判断材料がないという構造の問題ではないでしょうか。
一方で、こういう場面も見てきました。
「この一年で、この商品は18%上がっています」
そう出た瞬間、
値上げの議論は驚くほど早く終わります。
いくら上げるか。
どのメニューから直すか。
いつから変えるか。
止まっていたはずの判断が、
数字ひとつで動き出します。
つまり、
決められなかったのではなく、
決めるための材料が手元になかっただけ、ということです。
仕入れを記録に残しておくと、
値上げ以外の場面でも効いてきます。
どれも、後から振り返るための材料です。
日々の営業の中で、
記録は一番後回しにされる作業です。
でも、後回しにした分だけ、
判断が遅れていくのだと思います。
原価率が上がったとき、
本当に必要なのは決断力なのか。
それとも、
決めるための材料なのか。
私たちは、後者ではないかと考えています。

飲食店として15年以上現場に立ち、その後は卸・流通の内側にも入りました。どちらの立場も見てきたからこそ気づいたことを、ここに書きとめています。